亜鉛は人間の健康維持に不可欠なミネラルであり、体内では自ら生成できないため、食事やサプリメントを通じて摂取する必要があります。
亜鉛の体内での働き
亜鉛は多くの酵素の構成成分として機能し、細胞分裂、タンパク質の合成、代謝プロセスに関わります。免疫機能の維持や病気の治癒、正常な味覚の維持にも寄与し、人間の日常生活に不可欠です。
亜鉛不足は味覚障害や皮膚炎、口内炎などを引き起こすことがあります。免疫力の低下や感染症のリスク増加、慢性病の発症にも繋がり得る。厚生労働省の調査によると、多くの日本人成人が亜鉛の推奨摂取量に達していない可能性があります。
亜鉛は日常の食事から十分に摂取することが難しいため、意識的に摂取することが推奨されます。
では、男性の元気をサポートする成分として「亜鉛」は有名ですが、実際にテストステロンとの親密な関係性がありますので、亜鉛がどのようにテストステロンのサポートをするのかお話しします。
参考文献
厚生労働省|令和元年国民健康・栄養調査報告
亜鉛とテストステロンの生理的関係
テストステロンが分泌される為には、脳の「視床下部」から「LHRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)」が分泌され、その刺激を受けて「脳下垂体」から「LH(黄体形成ホルモン)」が放出され、精巣でのテストステロンの産生を増やすよう働きかけます。
亜鉛は、体内のテストステロン合成に重要な役割を果たし、LH(黄体形成ホルモン)の合成に関与する酵素の活性をサポートし、これによってテストステロンの生産が促進されると考えられています。
また、亜鉛不足により、テストステロンの受容体活性が低下し、テストステロンを減らしてしまうエストラジオール(女性ホルモン)受容体の活性が増加する現象も観察されています。
参考文献
Amit Zamir, Tavor Ben-Zeev, and Jay R. Hoffman. Manipulation of Dietary Intake on Changes in Circulating Testosterone Concentrations. Nutrients. 2021 Oct; 13(10): 3375. Published online 2021 Sep 25.
テストステロンレベルの正常化
テストステロンにとって亜鉛は多くの重要な機能を果たす栄養素であり、亜鉛はテストステロンの合成に関与し、その量を正常に維持します。
ウェイン州立大学の研究では、亜鉛不足の健康な男性に亜鉛を補給した結果、血中テストステロン濃度が正常値に回復しました。これは亜鉛が男性ホルモンの調節に重要な役割を果たすことを示唆しています。
食事による亜鉛摂取量の変動が、テストステロン値に影響を及ぼすことも示されています。特に20代の若者が亜鉛制限食を続けた際にテストステロン値が低下し、亜鉛不足の60~70代の男性が亜鉛を補給した際にはテストステロン値が増加する結果が得られています。
他の研究では、中高年男性のテストステロン値が正常な群は、低下群と比較して亜鉛量が高いことが明らかにされました。
このようにテストステロンにとって亜鉛は、多くの効果が期待できるのですが、それ以外にも科学的研究によって明らかにされた効果があるのでお話しします。
参考文献
Prasad AS, Mantzoros CS, Beck FW, Hess JW, Brewer GJ. Zinc status and serum testosterone levels of healthy adults. Nutrition. 1996 May;12(5):344-8.
Chang CS, Choi JB, Kim HJ, Park SB. Correlation between serum testosterone level and concentrations of copper and zinc in hair tissue. Biol Trace Elem Res. 2011 Dec;144(1-3):264-71.
亜鉛の健康的な効果
精子数の増加
亜鉛は精子形成に重要な役割を果たします。オランダの研究で、不妊症の男性に亜鉛と葉酸を摂取させた結果、精子の総数が顕著に増加しました。
参考文献
Wong WY, Merkus HM, Thomas CM, Menkveld R, Zielhuis GA, Steegers-Theunissen RP. Effects of folic acid and zinc sulfate on male factor subfertility: a double-blind, randomized, placebo-controlled trial. Fertil Steril. 2002 Mar;77(3):491-8.
風邪の症状緩和
亜鉛は免疫機能をサポートし、風邪の症状を緩和することができます。研究にて、風邪の発症期間が偽薬を使用したグループに比べて著しく短縮されました。
参考文献
Petrilli MA, Kranz TM, Kleinhaus K, Joe P, Getz M, Johnson P, Chao MV, Malaspina D. The Emerging Role for Zinc in Depression and Psychosis. Front Pharmacol. 2017 Jun 30;8:414.
メンタル悪化の軽減
心の健康において、亜鉛の重要性が注目されています。亜鉛濃度が低いと、うつ病の発症リスクが高まる可能性があります。海外研究では、うつ病患者の血液中の亜鉛濃度が低いことが明らかにされており、亜鉛摂取がうつ病の予防および改善に役立つ可能性が示唆されています。
参考文献
Petrilli MA, Kranz TM, Kleinhaus K, Joe P, Getz M, Johnson P, Chao MV, Malaspina D. The Emerging Role for Zinc in Depression and Psychosis. Front Pharmacol. 2017 Jun 30;8:414.
貧血の改善
亜鉛は赤血球の生成に関わるミネラルです。亜鉛不足は赤血球の生産不足を引き起こし、貧血を誘発することがあります。特に運動を頻繁に行う人は、汗などで亜鉛が失われやすいため、適切な亜鉛摂取が重要です。
亜鉛の摂取は、テストステロンレベルの維持、精子数の増加、風邪の症状緩和など、多方面にわたる効果が確認されています。特に男性の生殖健康に関連する面での効果が顕著ですが、免疫機能の強化にも役立ちます。
参考文献
Jeng SS, Chen YH. Association of Zinc with Anemia. Nutrients. 2022 Nov 20;14(22):4918.
亜鉛の効果的な摂取方法
亜鉛の摂取量
「日本人の食事摂取基準」によると、成人男性の推奨量は11mg/日です。しかし、国民健康・栄養調査によれば、日本人男性の平均亜鉛摂取量は推奨量に届かない場合が多いことが分かります。
この情報から、日本人男性において亜鉛の不足が見られることが多いため、亜鉛サプリメントの摂取によるテストステロン増加の可能性が高いと考えられます。
亜鉛酵母
亜鉛のサプリメントには、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、亜鉛酵母など様々な種類があります。いずれも亜鉛の吸収率を高めるよう調整されたサプリメントではありますが、原価による都合からも一般的にグルコン酸亜鉛が豊富に含まれています。
ですが、酵母に亜鉛を取り込んだものも特に吸収効率がよりことが分かりました。研究にて「グルコン酸亜鉛」と「亜鉛酵母」を摂取した時に48時間にわたって生物学的利用能を計算した結果、亜鉛酵母はグルコン酸亜鉛よりも生物学的に利用しやすいことが分かりました。
なので、より効果的な摂取をするなら亜鉛酵母を検討するのも一つです。
参考文献
Tompkins, T. A., Renard, N. E., & Kiuchi, A. (2007). Clinical evaluation of the bioavailability of zinc-enriched yeast and zinc gluconate in healthy volunteers. Biological trace element research, 120(1-3), 28–35.
亜鉛と相性のいい成分
亜鉛単体でも、数多くの実証データが発表されておりますが、亜鉛同時摂取することでより反応が良くなる成分もあります。
研究にて「亜鉛とマグネシウム」の有効性、「亜鉛とマグネシウムとセレン」の有効性が示されたデータからもマグネシウムやセレンは、同時摂取する場合には相性がいい成分になります。
参考文献
Brilla, L. & Conte, V.. (2000). Effects of a novel zinc-magnesium formulation on hormones and strength. Journal of Exercise Physiology Online. 3. 26-36.
Sahin K, Orhan C, Kucuk O, Tuzcu M, Sahin N, Ozercan IH, Sylla S, Ojalvo SP, Komorowski JR. Effects of magnesium picolinate, zinc picolinate, and selenomethionine co-supplementation on reproductive hormones, and glucose and lipid metabolism-related protein expressions in male rats fed a high-fat diet. Food Chem (Oxf). 2022 Jan 27;4:100081.
亜鉛の副作用
「日本人の食事摂取基準」によると、成人における亜鉛の耐容上限量は1日あたり40mgと設定されており、亜鉛の過剰摂取は、吐き気、下痢、頭痛などの副作用を引き起こす恐れがあります。
通常の食事からの亜鉛摂取ではこの量を超えることは少ないですが、サプリメントを用いて摂取する場合、過剰に摂取すると健康上のリスクが生じる可能性があります。
実際に、亜鉛の過剰摂取がテストステロンにプラスに影響するわけではなく、既に十分な亜鉛を摂取している場合には、亜鉛の追加摂取によるテストステロンの増加効果は限定的だと複数のデータにより報告されています。
参考文献
Koehler K, Parr MK, Geyer H, Mester J, Schänzer W. Serum testosterone and urinary excretion of steroid hormone metabolites after administration of a high-dose zinc supplement. Eur J Clin Nutr. 2009 Jan;63(1):65-70.
まとめ
亜鉛は、テストステロンや性機能改善に有効な成分です。
継続的に摂取し続けることが成果を実感するために必要なので、普段の食事で十分な摂取が難しいと感じる場合には、サプリメントを利用するなど価格帯を含めて、継続しやすい方法を選択することが重要になりますね。
また、吸収率を考えられた「亜鉛酵母」を選択したり、「亜鉛」だけでなく「マグネシウム」や「セレン」など相性がいい成分を同時摂取するなど、「適切な成分量」と「適切な組み合わせ」を考えた継続的な摂取はとても大切ですね。